【テーマ】非がん疾患のエンドオブライフケア
【実施日】令和5年7月12日(水)18:00~19:00
【講 師】東京ふれあい医療生活協同組合 研修・研究センター長 平原 佐斗司先生
【参加者】17名

【概 要】

 先生は島根医科大学のご出身で、在宅医療と非がん疾患の緩和ケアをライフワークにされている。
今回は、非がん患者のエンドオブライフケアをテーマに、(1)なぜ取り組んだのか、(2)その歴史、(3)その課題、についてお話し頂いた。

 先生は、がん患者さんの在宅緩和ケアを行うため、1992年に大学病院から地域に移られたが、当時は在宅緩和ケアの概念もなく、東京といえども皆無の時代であったと話された。
1994年に『在宅医療を推進する若い医師の会』に参加され、パイオニア達との交流を通し、在宅医療をライフワークにすることを決意された。
しかし、在宅患者さんの9割は高齢者で、高齢者をどのように見ればよいのか困惑されたそうである。
そんな中、アメリカで開催された『ミシガン老年医学セミナー』に参加する機会を得られ、ホスピスが非がん疾患を対象にしていることや、認知症が死に至る病であることに強い衝撃を受けられた。
帰国後、非がん疾患のエンドオブライフケア・緩和ケアをライフワークと決め、非がん疾患の緩和ケアに対する研究にも取り組まれた。
日本緩和医療学会や日本在宅医学会での先生方との出会いを通じて、書籍の執筆やテキストを出版され、2016年には日本エンドオブライフケア学会を設立されている。

 先生は、非がん疾患の緩和ケアの特徴について、がんと比べ、(1)その多くは高齢者であること、(2)多くが慢性疾患で長期ケアの延長線上に終末期ケアがあること、(3)予後予測は困難で予測できる予後は非常に短い、(4)意思決定支援は可能であるが、多くの選択を行わなくてはならないため選択できない患者も多い、(5)緩和すべき症状・方法は多様であること、(6)苦痛を訴えられない患者が少なくない。客観的評価が必要であること、(7)非がん疾患に対しての標準的な治療は最後まで行うことが緩和ケアになる と話された。

 続いて、海外におけるホスピス・緩和ケア・エンドオブライフケアの歴史的推移についてご教授頂いた。
1960年代、がんを中心に緩和ケアが発達してきたが、その源流はがんではなく貧困者や結核等、人権運動の一環から始まっている。
90年代から『緩和ケアの対象はがんだけでよいのか』という議論が欧米で湧き起こり、RSCD(英)&SUPPORT(米)など様々な報告書が出された。
そして、今世紀になって、欧米各国でがん以外の緩和ケアが実践されるようになってきた。
現在はあらゆる疾患・年齢を問わず、在宅を中心としながら施設や病棟等様々な場所で提供されるべき、普遍的ケアとしての緩和ケアと認識されるようになった。

 最後に非がん患者の苦痛と緩和ケア・EOLケアの課題を挙げられた。
非がん患者の苦痛としては、(1)心不全患者、(2)非がん性呼吸器疾患のEOL期、(3)末期腎不全の死亡前1週間、(4)末期認知症を教授頂き、緩和ケアを受ける権利について宣言・決議・条約等、この20年の流れをまとめてご紹介頂いた。

 先生は非がん疾患の緩和ケアの課題について、「緩和ケアのニーズは時代によっても変わるし、場所によっても変わる。病気を治すというのは医師の仕事であるが、苦痛を和らげることも同じくらい重要な仕事である。がん以外の緩和ケアはまだまだ課題が多い。2018年に心不全が緩和ケア診療加算の対象に追加されたが、その後まったく政策的に動いていない。研究はすすんでいるが、人権としての緩和ケアが提供できる状況には程遠い。緩和ケアアプローチを医療現場に浸透させるための教育・研修、プライマリな緩和ケアを担う総合医の育成、緩和ケアを推進するための根拠となる法整備が必要である。」と話された。

 先生が重ねて話された「苦しみの中に放置するのは人権の侵害である。緩和ケアの提供は国の義務であり、医療者の倫理的責務である」というメッセージは、これから医療を担う学生たちの胸にも深く刻まれたことであろう。

会場

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