橋本龍也先生橋本龍也先生橋本龍也先生

【テーマ】緩和ケアへの道と魅力
【実施日】令和6年1月24日(水)12:15~12:45
【講 師】島根大学医学部 麻酔科学講座麻酔科講師 緩和ケアセンター長 橋本 龍也 先生 
【参加者】23名
【概 要】
 先生は救急にあこがれ医師を目指し、全身管理・集中治療のできる診療科として麻酔科に入局された。県外の病院で麻酔症例を沢山経験され、大学に戻ってからは基礎研究の道に進まれた。『痛みの受容体』の研究を行い、学位取得後は臨床に戻られ、麻酔と並行してペインクリニックも担当された。

 先生が緩和ケアの道に進む大きな切っ掛けとなったのは、2009年新型インフルエンザが流行していた時期に遡る。緩和ケア学会で海外に出張していた医師が空港で足止めとなり代理で診療に当たられたそうである。その時に看護師他とチームで医療する緩和ケアの魅力に目覚め、やりがいを感じこの道に進まれた。また、時期を同じくして、国立大学では2番目となる緩和ケアセンターが当院に設立され、初期メンバーの専従医師としてセンターに異動された。その後、緩和ケア医の専門医・指導医を取得し、2022年にセンター長に就任された。

 先生は緩和ケアの魅力を5つ挙げられた。「1.多職種連携・地域との連携が必要となるチーム医療であること、2.患者さんそのご家族、それを包括する地域との対話が多くできること、3.全人的なかかわりを大切にできること、4.患者さんが人生の最期を悲嘆ではなく、良い人生だったと思える過ごし方ができるように寄り添えること、5.自分自身が人として成長できる」である。

 更に先生は、「緩和ケアの様々な場面から日々学ぶことができる」と話された。例えばコミュニケーションの場面でも、本人が無意識にやっている部分と意識的にやっていることがある。沈黙一つでも意味があるので、指導医や看護師の言動に何か気付く点があれば、その意味を考えてみるように助言された。

 また、よりよい緩和ケアを実践するためには、「ナラティブを重視しすぎることなく、まずは身体的な苦痛を取らないとその他の苦痛も見えてこない。緩和ケア領域では、まだエビデンスが少なく、日々更新される論文を読んでアップデートが必要である。しかし、エビデンス重視になりすぎても患者さんの価値観に沿うことが難しくなるので、エビデンススキルとナラティブスキルのバランスが重要である」と話された。

 先生は、治すことが医療の全てではなく、治らないとなった時に患者さんに寄り添える、患者さんのQOLを高めることも医療の本質であり、緩和ケアのやりがいであると話された。そして最後に「島根県は緩和ケアを専門とする医師が少ないが、教育体制はよい環境にあり、今後緩和ケア医が増えていくことを期待する」とメッセージを贈られた。学生達が深く頷きながらメッセージを受け取る姿が印象的だった。